【検証】やっぱり北の方に行けば行くほど自販機の「あったか~い」率は上がるの?

皆様ごきげんよう。PostZundaRockだ。

さて、僕と変わり者の最たる例としてよく名が上がる友人の鈴木は、高校三年生の冬休みに青春18切符を使って東北、さらには北海道まで無計画の2人旅に行ってきた。

JR在来線だけを使って行く総距離357.6kmの夢と希望と、腰の痛さに満ちた大旅行である。

 この旅行スタートの朝、僕と鈴木は出発地点である東飯能駅の自販機で数本、温かいお茶を購入した。12月の飯能とて、埼玉県の山の中はゲチ寒である。凍える両手にお茶を握りしめて、旅の始まりの一本目の電車に乗車したのだった。

 そこでふと、頭をよぎることがあった。

「やっぱり、寒い地方に行けば行くほど自販機の『あったか~い』率は上がるのではないか」

時刻は8時早朝。寒さと、前日興奮して寝れなかったことが相まって、よくわからん変なことを考えがちである。

朦朧とした意識の中、僕たちは何故かこのことについて激しく討論した。

「変わるだろう」

「いや、そんなことはない。『あったか~い』様はそんなに増殖しない」

「でも考えてみろ、寒いとあったかい物がほしくなる。必然的に売れるじゃないか」

「いや、『あったか~い』様は、崇高なんだ。庶民が簡単に手が出せる物じゃない」

「お前のさっきから言っている『あったか~い』様は何なんだよ」

と、こんな風に、よく分からない討論が飛び出し、段々と眠気が吹っ飛んで行った。

そして、僕たちはある一つの結論に行き着いたのである。

「じゃあ、自販機を写真に収めて、比べてみれば良いじゃないか」と。

 そんなこんなで、旅すがら津々浦々で取った自販機の写真と共に、特徴と個性を書いていくことにした。

気軽に始めたこの検証が、まさかあんな事になるなんて、この時の僕らは知るよしも無かった……。

FAST PICTURE 米沢

米沢駅構内にて

「何故FASTPICTUREが米沢なんだ? さっき東飯能で思いついたて言ってたじゃないか!」

とお思いの読者もいるだろう。まぁ、端的に言えば、写真を撮るのを忘れていたから米沢からなのだが、落ち着いて聞いてほしい。

僕には、確かに宇都宮と東飯能で写真を撮った記憶がある。その写真が見つからない午前12時半。一番焦っているのは僕である。

 と言うことで気を取り直して、米沢の写真を見ていこう。米沢の自販機で特筆すべきは、「あったか~い」が二段目にまで食い込んできていることだ。これは、やはり東北地方ならではと言える。普段「あったか~い」比率は黄金比の2:1であるのに対し、その比率を優に超えてくる。これはまるで鉄壁の砦を崩し、攻め込む武将の様だ。「あったか~い」、恐るべし。

と言うことで、とりあえずの基準は米沢の自販機だ。この写真を基準に、次なる自販機へと向かうとする。

SECOND PICTURE 福島

福島駅構内にて

 次なる自販機は、米所福島県。この自販機は打って変わって、先程の仙台を凌駕する「あったか~い」率だ。二段目はほぼ「あったか~い」に占領されたと言っても良いだろう。これでは残る三人の兵士が可愛そうなくらい、「あったか~い」である。

てか今更だが、米沢より福島の方がどっちかって言うとあったかくなってね?おかしくね?と、脳が混乱しているが置いとくとして、この自販機の特筆すべき点はズバリ、残された三人の兵士にある。

左から「リポビタンD」、「ふじ」、「ミネラルウォータ」となっている。

この中心にいる「ふじ」は、青森のリンゴをふんだんに使った贅沢なリンゴジュースなのだが、中々の強敵である。

こいつの特徴を一言で表すなら、「神の飲み物」。こいつは、値段が遙かに高いのだ。

普通の自販機ではリンゴジュースは大体、100円~120円前後を行ったり来たりしている。でも、こいつは、それを遙かに凌駕する180円という価格で鎮座してる。

「ふじ」を中心に残す御三家が残っているなら、福島の二段目は、中々「あったか~い」の手には渡りにくいだろう。

これは「あったか~い」様のお手並み拝見と言ったところか。

 と言うことで、福島で現れた強敵「ふじ」はいかにして倒れるのか、目が離せない。福島はそんな自販機だった。

THAAD PICTURE 秋田

秋田駅構内にて

 僕たちは、秋田県の自販機を初手見たとき、敗北を確信した。本企画は、「寒い地方に行けば行くほど『あったか~い』率が上がるだろう」という確信の元行っている物である。それがあろうことか、秋田県で終破れた。

「おい、どうしちまったんだよ『あったか~い』。お前は、こんなところで死ぬ玉だったのか?」

「『あったか~い』様はきっと『つめた~い』の冷気に一時的に当てられただけなのだ。きっと、我々の『あったか~い』様は生き返る。ここで、祈りを捧げよう。鎮魂と、鋭気を」

「だからお前は誰なんだよ」

鈴木の変なボケと僕の空虚な突っ込みが、秋田駅のホームにこだまする。僕たちは落胆のまま、青森行きの電車に乗車したのであった。

追伸・秋田駅のコンビニで販売されていた「ふじ」の価格は、相場よりも20円ほど安くなっていた。僕はこれを見た瞬間、秋田はよほどの魔境なんだなと確信した。一刻も早く抜け出さねば。リュックサックにいぶりがっこをブッ挿すと、速やかに電車へと乗車した。

コンビニに売られる高級林檎ジュース

FORCE PICTURE 青森

青森駅構内にて

僕たちは、現実を知った。

あんなにも福島では激闘だった「あったか~い」は、いつしか仙台くらいまで後退していた。

ああ、これが現実か。なんて無情なんだ。

あんなにも頑張っていた「あったか~い」はどこへ消えてしまったんだ。てか「あったか~い」の「~」ってなんだよ。これ手打ちするのすげぇ疲れるんだけど。

そんな空虚な想いが、胸いっぱいに溢れて、苦しくなる。

溢れそうになる涙をこらえて、自販機に別れを告げた。

「祈りは、届かなかったか……」

彼の言葉が、さんさんと降る雪の中に消えていく。

灰色の曇り空が、僕たちを押しつぶすようで、とても苦しかった。

僕はコンビニで買ったカットリンゴを一口囓ると、空しく旅館へと歩いて行ったのだった。

FIFTH PICTURE 北海道

函館に降り立ったとき、初めて見つけた自販機

津軽海峡に思いを捨て、本州を出るとそこはどこまでも広がる大地の、北海道函館市だった。

ひとしきり泣いた後見る夜景は綺麗で、心が軽くなるようだった。

「なぁ、これで泣きわめいたことだし、元気出そうぜ」

僕はそう言って彼の手を取る。すっかり塞ぎ込んでしまった彼は、ぶつくさと「あったか~い様」と唱え続けていた。

僕は仕方なく彼を放っておくと、一歩目を北海道へと付けたのだった。

 そうしてバスに乗ること数十分、函館駅へと着いた。中に入り、一応、自販機を確認する。

そこに、「あったか~い」の姿はなかった。

「こんなのってあんまりだよ。ひどいよ。日本の一番北だよ?寒いに決まってるじゃん。なんで『あったか~い』を置かないんだよ!」

僕は思わず、叫んでしまった。

外では本州とは違う、大きくてまあるい、真っ白な雪が空から降ってきている。

風に凍えてしまいそうだった。

隣では彼が、未だぶつくさと唱え続けている。

「なぁ、何かいえよ!俺たちの検証は無駄だったのか⁉」

僕は思わず、彼の肩を掴んだ。

すると彼は、

「俺だって信じたいんだ!」

と長い前髪の中から鋭い眼光を僕に向けながら言った。

そうだ。一番傷ついているのは、こいつなんだ。

僕は改めて、彼の信仰の強さを、思い知った。

「ごめん」

そう一言だけ呟くと、僕は彼の肩から手を離し、キャリーケースに握り直した。

そうして僕たちは、黄色い電球が店内から煌々と輝くジンギスカンの店へと入っていったのであった。

LAST PICTURE 函館山

ごうん。ロープウェイは静かに、どんどんと標高を上げていった。外では先程まで猛吹雪だったが止み、今ではしんしんと静かな雪を降らせている。

12月22日。クリスマスを三日後に控えたその日、僕たちは函館山山頂へと向かっていた。

「なぁ、もうクリスマスだな」

彼がそう呟く。

街のネオンは恍惚と輝き、僕たちに華やかさを訴えかけてくる。どんどんと標高が高くなっていくと、そのネオンは豆粒ほどとなり、小さくなっていった。

僕はまるで、星空のようだ、と思った。

「な」

一言返すと、外の景色に集中した。

「……クリスマスの奇跡って、信じてる?」

不意に彼が、聞いてくる。

僕は少し考えて、「信じてる」と返した。

次第にロープウェイは急勾配になり、山頂へと到着した。僕は降りて、函館山の空気を肺一杯に吸い込む。

冷たい空気は肺を凍らせ、喉にチクチクとした触感を残した。

いける。こんなに寒ければ、いける。

僕はそう確信して、山頂展望台へと向かった。

いままで、いろんなことがあった。「あったか~い」の大躍進をみた福島。「あったか~い」を信じて、祈った秋田。「あったか~い」の別れを惜しんだ青森。そして、姿を消した北海道。思い出が函館山から見る夜景のように、キラキラと輝いていた。

これも全て、今日のために。きっと、「あったか~い」は函館山で大躍進をしているに違いない。

僕たちは決意を固めると、函館山の自販機へと向かった。

函館山山頂の自販機にて

「「あったか~い!!!」」

僕たちは声をそろえると、自販機の元へ駆け寄った。

「『あったか~い』、生きていたんだね!」

「『あったか~い』様、ありがたやありがたや……」

「あったか~い」は、生きていた。それも三段目ではなく、一段目に拠点を移して、生きていたのだった。

これこそ、クリスマスの奇跡だと感じた。

ホーム・アローンでも言っていたが、やはり、年に一度のクリスマスには何よりも耐え難い奇跡が起こる物なのだ。

僕たちは記念で「『あったか~い』飲料」を購入すると、凍りそうな手で握りしめた。

熱すぎるほどの「あったか~い」は段々と冬空の元、温くなっていく。

きっと僕たちはこの冬のことを忘れないだろう。記憶が色あせても、いつでも「あったか~い」を見れば思い出せる。

だっていつも身近に「あったか~い」はいるのだから。

 

結論・北に行っても「あったか~い」率は変わらないどころか逆に減る。